MONOSHIRI
MONOSHIRI日本酒鳳凰美田
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鳳凰美田

栃木のフルーティーの極致——メロン香と呼ばれる華やかな甘み

栃木県小山市。日光連山の裾野に広がる米どころの一角、肥沃な関東平野の田園風景の中に、明治5年(1872年)創業の酒蔵がある。小林酒造——銘柄「鳳凰美田(ほうおうびでん)」。日本酒ファンの間で鳳凰美田を一度でも飲んだ人は、そのラベルを見るたびに決まった感想を口にする——「あのメロンみたいな香り」。青リンゴ、マスカット、メロン、白桃——吟醸香という言葉では片付けられないほど豊かな果実の香りが、一本の瓶から立ち上がる。フルーティー系日本酒の代名詞であり、栃木県が生んだ華やかな甘みの頂点に立つ銘柄である。

日光の伏流水が育む透明感——小林酒造150年の歴史

小林酒造は、日光連山から流れる清らかな伏流水と、関東平野の肥沃な田園地帯という自然環境に恵まれた立地を活かし、150年以上にわたって酒を造り続けてきた。「鳳凰美田」という銘柄名は、小山市の別名「美田」(美しい田んぼの意)に、縁起の良い鳳凰を組み合わせたものとされている。栃木の田んぼが育む米で、鳳凰が羽ばたくような華やかな酒を——この命名自体が、蔵の目指す方向をはっきりと示していた。

小林酒造のターニングポイントは、1990年頃からの大きな方針転換にある。それまで地域の地酒として地元中心に流通していた小林酒造は、地元で契約栽培した有機米を使った吟醸酒造りに本格的に取り組み始めた。当時、日本酒業界で「吟醸酒ブーム」が広がりつつあり、華やかな香りと繊細な味わいを持つ吟醸酒が、若い世代を日本酒へ呼び戻し始めていた時期である。小林酒造はこの流れをただ追いかけるのではなく、「栃木の米と水で、栃木でしか作れない吟醸酒を」という軸を立て、独自の道を歩み始めた。

華やかな吟醸香は、目立つためではない。米と水と技術が一つの器の中で最大限に解放された時に、自然に生まれるものだ。

鳳凰美田の香りの正体——吟醸酵母と低温発酵の科学

鳳凰美田の代名詞とも言える「メロンのような華やかな香り」の正体は、吟醸酒造りの過程で生成されるカプロン酸エチルという香気成分だ。この成分はリンゴやメロンを思わせる果実香を生み出し、特に低温でゆっくり発酵させた吟醸酒に多く含まれる。小林酒造では、低温長期発酵を徹底することで、この香気成分を最大限に引き出す酒造りを続けている。

使う酒米は、主に山田錦。兵庫産の山田錦を中心に、品質の高いロットを厳選して使用する。精米歩合は吟醸酒クラスで50%〜40%、大吟醸クラスでは35%以下まで磨き上げる。米粒の中心の心白部分のみを使うことで、雑味を徹底的に排除し、クリアで華やかな味わいを実現する。

  • 創業:1872年(明治5年)、栃木県小山市
  • 主要酒米:山田錦(兵庫産を中心に)
  • 仕込み水:日光連山の伏流水、柔らかな軟水
  • 精米歩合:吟醸50〜40%、大吟醸35%以下
  • 発酵:低温長期発酵、カプロン酸エチルを最大化
  • 絞り方:伝統的な木槽搾り、滴取り(雫搾り)を採用

「美田」「Black Phoenix」——多彩なラインナップ

鳳凰美田のラインナップは非常に豊かで、華やかな中にも個性の異なる表現が並ぶ。代表的なものを挙げてみよう。

「鳳凰美田 純米吟醸」は定番中の定番で、山田錦を55%まで磨いた純米吟醸。メロンと青リンゴを思わせる香りが印象的で、口当たりは柔らかく、甘みはあるが後味はスッキリ——鳳凰美田入門の一本として最もおすすめだ。

「鳳凰美田 Black Phoenix」は、ラベルの黒いデザインが印象的なプレミアムライン。山田錦50%、より洗練された味わいで、贈答用や特別な席にふさわしい。

「鳳凰美田 純米大吟醸 髭判官」は山田錦35%まで磨いた最高級クラス。華やかな香りと深い旨味、そして複雑な余韻が層を成す、鳳凰美田の技術の粋である。

さらに小林酒造は、梅酒やいちご酒、柚子酒といったフルーツリキュールの製造でも高い評価を受けている。栃木県産のいちごや柚子を使い、日本酒ベースで仕込む——鳳凰美田の華やかな酒質と、栃木のフルーツの相性を知り尽くした蔵ならではの展開だ。

初心者こそ鳳凰美田——日本酒の入り口として

「日本酒は苦手」「辛くてきつい」——そう感じている人にこそ、鳳凰美田を飲んでみてほしい。ワインのような果実香、穏やかな甘み、スッキリした後味——日本酒に対する既存のイメージを、一口で覆してくれる力を持っている。実際、日本酒初心者が「これなら飲める!」と感動して、そこから日本酒の世界に入っていくケースは非常に多い。

飲み方は以下を参考にしてほしい。

  • ワイングラス必須:吟醸香を楽しむなら、白ワイン用のチューリップ型グラス
  • 温度は10〜12度:冷やして香りを閉じ込めつつ、開かせすぎない
  • 最初はそのまま:料理なしで、まず一口目の香りと味を楽しむ
  • 料理を合わせるなら:生ハム、白身魚のカルパッチョ、モッツァレラチーズ、果実を使った前菜
デザートとの相性も抜群だ。フルーツタルトやチーズケーキ、抹茶のデザートなど、甘みの強い料理と鳳凰美田の甘口吟醸は驚くほど調和する。日本酒で食後のデザートを楽しむ——という新しい習慣を、鳳凰美田は手軽に教えてくれる。

華やかさという選択——鳳凰美田が業界にもたらしたもの

日本酒業界には長らく「辛口至上主義」があった。「淡麗辛口こそが大人の酒」という考え方が強く、甘口や華やかな吟醸酒は「軽薄」と見なされる傾向もあった。しかし鳳凰美田のような華やかで甘みのある吟醸酒が支持を集め始めたことで、業界全体の多様性が一気に広がった。「どちらが上か」ではなく「どちらも良い」——この認識の転換に、鳳凰美田は確かな役割を果たしてきた。

栃木県は、鳳凰美田を筆頭に、仙禽や松の寿といった個性的な吟醸系銘柄を抱えており、近年では「栃木吟醸」という呼称も聞かれるようになった。日本酒の全国地図の中で、栃木県は確実にその地位を上げている。その先頭を走り続けているのが、150年の歴史を持ちながら常に新しい表現を追求し続ける、鳳凰美田・小林酒造の存在だ。

蔵元の小林正樹氏は、インタビューで「米農家の未来を守ることが蔵の使命」と語っている。日本の農業が高齢化と後継者不足に直面する中で、小林酒造は地元の米農家と長期契約を結び、毎年安定した価格で酒米を買い取る仕組みを作り上げてきた。華やかな吟醸酒は、華やかな田園風景があってこそ生まれる——鳳凰美田の一本には、栃木県小山市の田んぼを次の世代に繋いでいくという、小さな蔵の大きな決意も込められている。

次に鳳凰美田を手に取ったら、ぜひ夕食前の一杯として、ワイングラスに注いでみてほしい。立ち上る香りにまずメロンや青リンゴを感じ、口に含んだ瞬間に甘みがゆっくりと広がり、後味が驚くほどスッキリ消えていく——この一連の体験こそ、栃木県の田んぼと日光の伏流水が育てた、華やかな果実の物語である。日本酒を飲み慣れた人も、そうでない人も、一度はこの「メロン香」の頂点に触れてみる価値は、十分にある。

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鳳凰
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