MONOSHIRI
MONOSHIRIお米にこまる
Educational Article · 5 min read

にこまる

温暖化に強い九州生まれの大粒——噛むほどに広がる濃い甘み

にこまる ― 暑さと戦うために生まれた、九州の頼れる大粒

「お米が困っている」現場から始まった開発

地球温暖化の話題は、もはや誰もが耳にしたことがあるでしょう。しかし、それが日本の米作りにどれほど深刻な影響を与えているかは、あまり知られていません。とくに九州では、夏の登熟期の猛暑によってお米の粒が白く濁ってしまう「白未熟粒」の発生が増え、検査等級が下がり、農家の収入を直撃するという問題が長年続いていました。九州の看板品種であるヒノヒカリですら、対策に追われていたのです。

そんな時代の声に応えるかたちで2005年に品種登録されたのが、「にこまる」です。開発したのは、農研機構九州沖縄農業研究センター。交配の組み合わせは、「は系626(のちのきぬむすめ)」を母に、「北陸174号」を父とした系統。つまり、温暖地向けの良食味品種の血を引きながら、高温に強い遺伝形質を組み合わせた、まさに「未来型の九州米」として設計されました。

開発の目標は明確でした。ヒノヒカリの食味を維持しつつ、高温下での玄米品質を改善する——。研究陣は九州の気候を想定した試験を重ね、白未熟粒の発生がヒノヒカリより明らかに少なく、かつ収量もヒノヒカリより約8%多い系統を選び抜いたのです。この「気候変動適応型品種」という発想は、当時としては先進的な取り組みでした。

ずっしり大粒、にこにこ笑顔の命名

にこまるの第一印象は、何といっても粒の大きさと存在感です。一般的なうるち米よりも明らかに粒が大きく、ふっくらと丸い。炊き上がりを見た瞬間、米粒のひとつひとつが立ち上がり、表面にはうっすらとした光沢をまといます。

名前の「にこまる」は、「食べた人がにこにこ笑顔になる」「丸々とした大粒」という二つの意味を掛け合わせて付けられました。九州らしい素朴で温かみのあるネーミングで、スーパーの棚で見かけた瞬間、思わず手が伸びるような親しみやすさがあります。

「にこまる」という名前は、子どもから祖父母まで、全員が覚えられる——九州のコメ農家が孫に伝える品種名として、これほど理想的なネーミングはありません。

噛むほどに広がる、濃い甘み

口に運ぶと、まず感じるのはしっかりとした粒の手応え。噛み進めるうちに、強い粘りと濃厚な甘みが口中に広がります。同じ温暖地系のヒノヒカリと比較すると、にこまるの味わいは一段階リッチで、噛めば噛むほど甘みが深まっていく余韻が特徴です。

食味のスコアだけで見れば、新潟の新之助や山形のつや姫といった各県のフラッグシップ米にも引けを取りません。それでいて、高温下での品質が安定しているという強みは、これらの東北・北陸産のプレミアム米にはない武器です。冷めても硬くならず、粒のハリが持続するため、九州の弁当文化——鶏めし、高菜めし、鯛めし——との相性もばつぐん。九州各地の駅弁屋がにこまるを採用する例も増えています。

栽培されているのは、長崎県、佐賀県、熊本県、大分県、宮崎県、鹿児島県、そして高知県や山口県の一部。各地で食味ランキング特Aを獲得する常連となり、なかでも長崎県産のにこまるは4年連続で特Aを取得した実績を持ちます。長崎県では県を代表するブランド米として、地位を確立しているのです。

炊き方とペアリング

にこまるは粒が大きく、炊き上がりに時間をかけて旨みを引き出すタイプの米です。水加減は標準、浸水は少し長めに取り、夏場でも45分〜1時間ほど。炊飯後は20分ほど蒸らしてから、粒を潰さないように優しくほぐします。

相性の良い料理は、九州の食文化そのもの。

  • 馬刺し・鶏の炭火焼 → 肉の赤身と濃厚な甘みが呼応する
  • とんこつラーメンの替え玉代わりのライス → 脂とのバランスが絶妙
  • 鯛めし・高菜めし → 郷土料理の旨みを受け止める
  • 焼酎と合わせる晩酌 → 意外にも相性がいい、米の甘みが焼酎の香りを引き立てる
  • 塩むすび → にこまる単体の個性がもっともよくわかる食べ方

「強くて美味しい」はもう矛盾じゃない

かつて、米作りの現場では「美味しい品種は栽培が気難しい」というのが常識でした。コシヒカリ系は美味だけれど病気に弱く倒れやすい、丈夫な品種は味が物足りない——そんなトレードオフの壁を、にこまるは見事に乗り越えてみせました。温暖化という新しい現実に、味と品質の両方で応えられる品種。これは、日本の米作りにとって大きな一歩です。

暑さに負けず、笑顔で実るその姿は、九州の人々の粘り強さそのもの。次にお米を選ぶとき、スーパーの棚で「にこまる」という優しい名前を見つけたら、ぜひ手に取ってみてください。ずっしりとした重みの向こうに、温暖化と戦い続けた研究者と農家の、静かな誇りが詰まっています。

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にこ