青天の霹靂
青天の霹靂 ― 青森が10年かけて放った、米界の落雷
青森県、悲願の「特A」獲得
「青森に美味い米はない」——。失礼な言い方かもしれませんが、長い間そう言われてきたのは事実です。青森県の看板と言えばリンゴ、ホタテ、大間のマグロ、そしてニンニク。米どころというイメージを持つ人は、少なくとも本州の米食圏ではほとんどいなかったでしょう。
それを裏付けるように、青森県産米はそれまで日本穀物検定協会の食味ランキングで、一度も「特A」を獲得したことがありませんでした。隣県の秋田はあきたこまち、山形はつや姫や雪若丸といった華々しいブランド米を次々と送り出していくなか、青森だけが取り残されていた——。県のコメ農家と研究者たちは、静かに歯を食いしばっていました。
その状況に終止符を打ったのが、2015年3月に品種登録出願、同年4月に青森県の奨励品種に指定された「青天の霹靂(せいてんのへきれき)」です。デビュー年に早くも青森県産米として史上初めて食味ランキングで「特A」を獲得。名前どおりの衝撃で米業界を揺るがしました。
10年がかりの長期開発プロジェクト
青天の霹靂の開発は、2006年に青森県農林総合研究センター水稲育種部(現・青森県産業技術センター農林総合研究所水稲品種開発部)で始まりました。交配は「三系交配」と呼ばれる複雑な手法で、「北陸202号(のちの夢の舞)」と「青系157号」のF1個体を母親、「青系158号」を父親として実施されました。
育成の目標は明確でした。
- 青森の気候でも出穂期が8月上旬で間に合うこと
- 耐冷性といもち病への耐病性に優れること
- それらを満たした上で、食味ランキング特Aを取れる極良食味を実現すること
開発は雑種第10代(F10世代)で完了し、そこまでに要した年数は8年。2013年には「青系172号」と「青系187号」の2系統まで絞り込み、穀物検定協会の食味官能評価を踏まえて「青系187号」を本命に決定。2014年2月28日に第二種認定品種に指定、同年11月5日に「青天の霹靂」という衝撃の名前で正式発表されました。
「晴れた空に響く雷のような衝撃を、日本の米業界に与えたい」——青森県の担当者は命名の意図をそう語っています。
シャッキリと立ち上がる、青森魂の一粒
青天の霹靂を炊いたとき、まず驚くのはその粒立ちの良さです。べたつかず、ひと粒ひと粒がしっかりと自立し、ツヤやかに輝きます。口に運ぶと、適度な粘りと、後を引かないすっきりとした甘み。重すぎず軽すぎず、まさに絶妙なバランスです。
味わいの方向性としては、コシヒカリのような濃厚なもちもち系ではなく、雪若丸やななつぼしに近い「粒立ち系」。さっぱりした食後感で、「もう一杯食べたい」と思わせる軽やかさがあります。
実は、この食感こそが青森県の戦略的選択でした。コシヒカリ系やつや姫系のもちもち路線では、先行する他県のブランド米と真正面からぶつかってしまう。ならば違う方向で勝負しよう——そんな計算の上に生まれた、明確な個性の米なのです。「濃厚さ」ではなく「切れ味」で勝負する。この割り切りが、デビュー直後からの特A獲得という結果に繋がりました。
炊き方とペアリング
青天の霹靂を美味しく炊くには、水加減はやや少なめ、浸水は30分ほど。粒立ちを活かしたいので、研ぎは手早く、ぬかだけを落とすイメージで。炊き上がったらすぐに蒸気を逃がし、ほぐしてから5分ほど置きます。
相性の良い料理は、青森の食文化と深く結びついています。
- 八戸前沖のサバ・いか → 青森の海の恵みとの相性は格別
- せんべい汁・じゃっぱ汁 → 郷土料理の旨みを受け止めつつ、米が負けない
- 寿司・手巻き寿司 → 粒立ちとキレが寿司飯に向く
- カレー・ハヤシライス → ルウに染まらず、粒の輪郭が残る
- 塩むすび → シンプルな食べ方で一番個性がわかる
「ない」と言われた地から、「ある」未来を
青天の霹靂は、単なる新銘柄米ではありません。「青森には米がない」と言われ続けた、青森県民の長年の悔しさと誇りが結晶化した一粒です。10年という開発期間のあいだ、何度も交配を重ね、何万株の中から選び抜かれた精鋭中の精鋭。そして、デビュー後も複数年にわたって特Aを獲得し続け、決して一発屋ではないことを証明し続けています。
青森という北国の気候で、どうすれば美味しい米が作れるのか——。その問いに対する、青森の研究者と農家からの答えが、この一粒には詰まっています。ひと口食べるごとに、北国の大地と人々の粘り強さが舌に伝わってくるはず。次にお米を選ぶとき、青森のこの「雷」に、ぜひ出会ってみてください。